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神戸地方裁判所 平成2年(行ウ)2号 判決

原告

播磨毅

右訴訟代理人弁護士

金子武嗣

伊藤ゆみ子

本上博丈

田中厚

秋田真志

巽昌章

被告

神戸市長笹山幸俊

右訴訟代理人弁護士

奥村孝

右訴訟復代理人弁護士

石丸鐵太郎

右訴訟代理人弁護士

中原和之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

1  被告が原告に対し平成元年一一月二七日付けでした別紙処分目録(一)ないし(三)記載の公文書非公開決定及び同目録(四)記載の公文書部分公開決定の非公開部分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、神戸市に住所を有する者であり、被告は、神戸市公文書公開条例(昭和六一年神戸市条例第一二号。以下「本件条例」という。)二条三号の実施機関である。

2  原告の公開請求

原告は、本件条例六条一号に基づき、平成元年一一月一三日、被告に対し、次の(一)ないし(四)の内容の公文書の公開を請求(以下「本件公開請求(一)」等という。)した。

(一) 神戸市国際港都建設事業須磨地区復興土地区画整理事業板宿地区土地区画整理審議会の発足から現在に至るまでの議事録

(二) 神戸市国際港都建設事業須磨地区復興土地区画整理事業板宿地区土地区画整理審議会が発足から現在に至るまでに施行者に提出した意見の内容

(三) 神戸市国際港都建設事業須磨地区復興土地区画整理事業板宿地区仮換地前及び仮換地後の各土地の面積、間口、奥行を測量した測量図面

(四) 神戸市国際港都建設事業須磨地区復興土地区画整理事業板宿地区の土地区画整理審議会の発足から現在に至るまでの委員の名簿

3  被告による本件処分

(一) 被告は、本件公開請求(一)ないし(四)について、公文書及びその内容をそれぞれ別紙処分目録(一)ないし(四)記載のとおり特定し(以下「本件文書(一)」等という。)、本件公開請求(一)ないし(三)に対しては別紙処分目録(一)ないし(三)記載の公文書非公開決定を、本件公開請求(四)に対しては別紙処分目録(四)記載の公文書部分公開決定をし(以下「本件決定(一)」等という。)、平成元年一一月二七日付けの通知をもって、右各決定を原告に通知した。

(二) 被告が本件文書(一)ないし(四)の公文書について非公開ないし部分公開の決定をした理由は、原告が被告から受けた前記通知によると、次のとおりである。

(1) 本件文書(一)について

本件条例七条一、七、八号該当

土地区画整理審議会議事規則(以下「審議会規則」という。)一一条に「会議は、公開しない」と定められており、よって会議の内容をまとめた議事録は公開することはできない。

その理由は、①審議会における各委員の公平かつ自由な討議を保障するため、②関係権利者の財産等に関するプライバシーを保護するため。

(2) 本件文書(二)について

本件条例七条一、七、八号該当

審議会規則一一条に「会議は公開しない」と定められており、よって会議の内容をまとめた議事録は公開することはできない。

その理由は、①審議会における各委員の公平かつ自由な討議を保障するため、②関係権利者の財産等に関するプライバシーを保護するため。

(3) 本件文書(三)について

本件条例七条一、二号該当

個人又は法人の財産状況に係る情報であって、公にしないことが正当であると認められるものがあるため。

(4) 本件文書(四)について

本件条例七条一号該当

個人に係る情報であって、公にしないことが正当であると認められるものがあるため。

4  被告の本件処分の違法性

(一) しかしながら、被告が本件公開請求(一)ないし(三)に対し非公開決定をし、本件公開請求(四)に対し部分公開決定をした理由は、以下に述べるように、土地区画整理関係法令に照らせば誤りである。

(二) 本件決定(一)について

土地区画整理審議会(以下「審議会」という。)は、事業施行に当たって施行地区内の権利者の意見をくみ取り、これら権利者の権利保護に資するための機関であり、委員は原則として施行地区内の権利者から選挙されること(土地区画整理法(以下「法」という。)七〇条、五八条七項)、審議会の委員の改選請求の制度が設けられていること(法七〇条、五八条七項)に照らせば、審議会の委員は、権利者の代表たる資格で行動する者であるから、各委員が審議会でいかなる行動をとったかは公開される必要がある。委員の審議会における行動を知ることができなければ、改選請求の制度が実質的に無意味になるから、審議会議事規則一一条が「会議は公開しない。」と定めているのは、会議場を物理的に公開しないとの意味に解すべきであり、議事録の非公開を定めた規定と解すべきではない。会議場の非公開が会議録の非公開と結びつくものでないことは、国会法六三条等の規定に照らせば明らかである。以上からすれば、本件条例七条七、八号に該当するとの被告の非公開決定の理由は誤りである。

また、被告は、非公開決定の理由として本件条例七条一号を挙げるが、法八八条が各筆換地明細、各筆各権利別清算金明細等を内容とする換地計画を縦覧に供すべきことを定めていることからすれば(法八七条、八八条)、少なくとも関係権利者の施行地区内の土地についての権利内容については公にされることが予定されているものである。そして、審議会は、換地計画、仮換地の指定及び減価補償金の交付に関する事項について法が定める権限を有するが(法五六条三項)、審議会がこれらの権限を行使するに当たり、換地計画の縦覧により公にされる関係権利者の権利内容や清算金の内容より以上に保護されるべきプライバシーを審理の対照とすることは考え難い。したがって、本件条例七条一号に該当するとの被告の非公開決定の理由も誤りである。

(三) 本件決定(二)について

法八四条、法施行令(以下「令」という。)七三条三号が、審議会の意見(同意又は不同意の意見を含む。)を記載した書類を土地区画整理事業の主たる事務所に備え付け、原則として利害関係者からの閲覧請求を拒んではならないとしていることからすれば、原告が公開を請求した「審議会の意見の内容」は公開されるべきは当然である。

法八四条、令七三条三号に照らせば、土地区画整理事業の施行者は審議会議事録とは別個に審議会の意見のみを記載した書面を作成することは明らかであって、そもそも被告が本件公開請求(二)に対し、本件文書(二)を特定したこと自体誤りである。

(四) 本件決定(三)について

被告は、本件公開請求(三)に対して、本件文書(三)である仮換地指定図及び整理前後対照図を特定した。このうち、仮換地指定図は仮換地後の測量図面といえるが、整理前後対照図は仮換地前後の土地の位置関係を示すにすぎず、仮換地の前及び後のいずれの測量図面にも該当しない。結局、被告がした本件文書(三)の特定は、原告が公開請求をした「仮換地前の各土地の面積、間口、奥行を測量した測量図面」についての特定を欠く。

また、被告は、本件文書(三)は本件条例七条一、二号に該当すると主張するが、前述のように、法が換地について各筆換地明細、各筆各権利別清算金明細等を内容とする換地計画を縦覧に供すべきことを定めていることからすれば、仮換地についても権利関係者の土地についての権利内容が「公にしないことが正当である」(同条一号)あるいは「個人の正当な利益を害すると認められる」(同条二号)ものでないことは明らかである。

したがって、本件決定(三)は文書の特定を欠き、また、理由も誤っている。

(五) 本件決定(四)について

被告は、本件文書(四)は、部分的に本件条例七条一号に該当し、個人に係る情報であって「公にしないことが正当であると認められるもの」があるとするが、前述のように、審議会の委員は原則として施行地区内の権利者の中から選挙で選ばれるのであり公務員であるから、審議会の委員の名簿に「公にしないことが正当であると認められるもの」があるとは考え難い。

したがって、本件決定の理由も誤りである。

5  まとめ

以上のとおりであって、本件決定(一)ないし(三)及び本件決定(四)のうち非公開部分はいずれも違法な処分として取り消されるべきである。

よって、原告は請求の趣旨のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1ないし3の事実は認める。

(二) 同4及び5は争う。

2  被告の主張

(一) 本件決定(一)について

(1) 審議会は、特別都市計画法による土地区画整理委員会の制度を承継したもので、行政庁が土地区画整理事業を施行する場合には、必ずこれを置かなければならないこととされている(法七〇条一項)。そして、審議会は、換地計画、仮換地の指定及び減価補償金の交付に関する事項についてこの法律に定める権限を行う(法七〇条三項、五六条三項)とされているが、これには、次のとおり大別して、施行者が審議会の意見を聞かなければならない事項に関するものと、施行者が同意を求めなければならない事項に関するものとがある。

① 施行者が意見を聞かなければならない事項

(a) 換地計画の作成・変更(法八八条六項、九七条三項)

(b) 換地計画の縦覧に対する意見書の内容審査決定(法八八条六項、九七条三項)

(c) 仮換地の指定(法九八条三項)

(d) 減価補償金の各権利者別交付額の決定(法一〇九条二項)

② 施行者が同意を求めなければならない事項

(a) 評価員の選任(法七一条)

(b) 過小宅地又は借地の基準地積の決定(法九一条二項、九二条二項)

(c) 過小宅地又は借地の換地不交付の決定(九一条四項、九二条三項)

(d) 増換地(借地)又は減換地の決定(法九一条五項、九二条四項)

(e) 立体換地の決定(法九三条一項)

(f) 特別換地の決定(法九五条七項)

(g) 保留地の決定(法九六条三項)

これらの審議会の意見は施行者を拘束するものではなく、また、同意についても、同意があった事項について施行者がその処分を必ず行わなければならないとしているものではない。審議会の本質はあくまでも施行者の諮問機関であり、審議会の委員には地権者のほか一定の学識経験者を加えることができ(法七〇条三項、五八条三項)、審議会の意見又は同意がなくても、施行者には処分をする権限が留保されている(法七〇条三項、六四条)ことなどからすれば、審議会の審議の目的は、施行地区内の地権者の保護というよりも、利害関係が錯綜しがちである土地区画整理事業につき、行政庁ができるだけ適切な措置をとることができるように、公正な判断を提供することにあるというべきである。

また、前述のように、法により審議会へ諮問する事項は、換地計画、仮換地の指定、減価補償金の交付等いずれも施行地区内の宅地の権利者個人の財産に係る事項であるから、それ自体みだりに公開すべき性質のものではなく、加えて重大な利害をもたらす処分であることから、各委員の発言、討議の内容が公開されることになると、関係権利者の各委員個人に対する不満や非難を喚起する事態も予想され、審議会における委員の公正かつ自由な討議に支障を生じ又は生じるおそれがあり、また、審議会で討議される関係権利者のプライバシー等に関する事実も公表される結果となる。

審議会は、それぞれの議事運営について、議事規則を定めており、本件審議会においても、その議事規則一一条で会議は公開しない旨を定めている。それは、以上の利害関係の調整、公正かつ自由な討議、プライバシーの保護といった点を踏まえ、審議会での公正又は円滑な議事運営を図ることを目的としたものであり、したがって、その結果である議事録についても公開しない趣旨を当然含んでいるものである。

したがって、これらの諸点を考慮すれば、本件審議会議事録が本件条例七条一、七、八号に該当することは明らかである。

(2) ところで、原告は、審議会の委員の改選請求制度の存在を主張の根拠のひとつとしているが、この制度は特定の委員の改選を目的としたものではないので、各委員の発言を公開すべき理由にはならない。

また、原告は、法八八条二項が換地計画を縦覧に供すべきことを定めていることを根拠に、少なくとも関係権利者の施行地区内の土地についての権利内容、清算金の内容については公にされることが予定されている旨主張するが、換地計画の内容と、換地計画作成の過程における審議を記した議事録とはあくまで別物というべきである。加えて、一般に行政庁施行の土地区画整理事業においては、先ず仮換地指定をした上で事業を進捗させ、工事が概成した時期に換地計画を定めて換地処分等を行う方法を採っているところ、神戸市国際港都建設事業須磨地区復興土地区画整理事業板宿地区(以下「本件事業」という。)は、現在は仮換地指定を行いつつ整備を進めている過渡的な段階であって、未だ換地計画は策定されておらず、今後も権利の変動は予想されることから、この時点で関係権利者のプライバシー等に関する事実を公開することはできない。

(二) 本件決定(二)について

(1) 法八四条及び令七三条三号は、「審議会の意見(同意又は不同意の意見を含む。)を記載した書類」を主たる事務所に備え付け、正当な事由なくして利害関係者からの閲覧請求を拒んではならない旨を規定している。本件事業の施行者である被告は、前記の「審議会の意見を記載した書類」として「審議会答申書」を神戸市役所内都市計画局区画整理部西部都市改造課に備え付け、利害関係者の閲覧に応じる態勢をとっている。

(2) 原告は、前記「審議会答申書」の公開請求をしていた旨主張するが、原告の公文書公開請求書(甲第二号証で、本件文書(一)に関するもの。)においては、公開を請求する公文書の内容として当初「答申の内容」と記載していたのを抹消し、改めて同日付けの別の公文書公開請求書(甲第三号証で、本件文書(三)に関するもの。)で「審議会の意見の内容」として公開の請求をしており、かつ原告に弁護士が代理人となっていながら、令で規定されている「審議会の意見を記載した書類」という表現を用いていない。

このため、被告は、原告が公開を請求した「審議会の意見の内容」とは審議会答申書ではなく議事の中で施行者に対して示したもの、すなわち実質的には議事録の内容そのものであると判断した。

(3) また、本件事業は、法三条四項の規定により被告が国の執行機関として施行するもので、機関委任事務であり、地方公共団体である神戸市の事務ではないので、神戸市の条例の制定しうる範囲に属さない。ただ、機関委任事務の処理に関連して収集、作成された文書については、その管理は原則として地方公共団体の固有事務と解されているが、法八四条及び令七三条三号は、施行者は審議会の意見を記載した書類(以下「意見を記載した書類」という。)を備え付け、利害関係者からの閲覧に原則として応じなければならない旨規定しており、この意見を記載した書類を管理し、一定の場合に公開する事務自体も機関委任事務であり、条例の対象とはならない。

原告が公開請求した「意見の内容」という記載が「議事録」を意味するのか、「意見を記載した書類」を意味するのか、必ずしも明らかでなかったが、「意見を記載した書類」(答申書)は本件条例の対象外であることもあり、議事録を特定した。

(4) このように、公文書の特定は妥当であり、これに対して、被告は、本件決定(一)と同じ理由から非公開を決定した。

(三) 本件決定(三)について

前述のように、本件事業は未だ整理の過程にあり、換地計画は作成されておらず、今後権利の変動も予想されることから、この時点で関係権利者のプライバシー等に関する事実を公開することには慎重であるべきであり、換地計画記載の内容はいずれ公にされるものであるからといって各関係権利者の権利内容を公開することはできない。したがって、仮換地指定図及び整理前後対照図は本件条例七条一、二号に該当する。

仮換地前の土地については、その概略の位置関係を示す整理前後対照図は存在するが、原告主張のような測量図は存在しないので、その特定において違法はない。

(四) 本件決定(四)について

施行者において作成し、保存している昭和五七年以降の審議会委員名簿には、委員の議席番号、氏名、住所、選出の区分のほか、生年月日、職業、自宅及び勤務先の電話番号が記載されている。被告は、このうち委員の議席番号、氏名、選出の区分については、公文書部分公開決定通知書により公開の決定を行ったが、生年月日、職業、自宅及び勤務先の電話番号については、個人のプライバシーに係るもので、本件条例七条一号に該当し、公にしないことが正当であると認めて非公開とした。

(五) なお、原告は、被告が原告に対してした法に基づく処分に対して当庁に訴訟を提起している(当庁平成元年(行ウ)第三八号事件)。その事件における被告からの文書の取寄せについては民訴法に手続が規定されており、同法によって諸手続をすべきである。たまたま本件条例があることを利用しての本件請求は、公文書公開制度の本質をわきまえないものである。

三  原告の反論

1  いわゆる情報公開条例の憲法上の位置づけ

(一) 政府その他の公的機関の有する情報について、国民の「知る権利」を保障することは、国民主権、民主主義という憲法上の基本的原則を実質的に担保するために必要不可欠である。このような「知る権利」は、市民的及び政治的権利に関する国際規約一九条において、「表現の自由についての権利(は)、…あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。」と規定されていることからも明らかなように、表現の自由(憲法二一条)に含まれるものである。

したがって、いわゆる情報公開条例は、憲法で保障された「知る権利」を具体化するものであり、憲法上の基本原理である国民主権を十全ならしめ、地方自治体行政に対する民主的統制の実効性を担保するためのものである。

本件条例一条が、本件条例の目的を「市民の市政への参加をより一層推進し、市政を公正かつ効率的に運営し、市民福祉の向上を図り、市民の市政への信頼と理解を深め、もって地方自治の本旨に即した市政の実現に資すること」としているのは、以上に述べた趣旨を宣明したものと解される。

(二) 以上からすれば、本件条例に基づく権利は、憲法で保障された「知る権利」が具体化されたものであり、したがって、公開請求された公文書は公開されるのがあくまで原則であり、本件条例の適用除外について定める本件条例七条各号の解釈は厳格かつ限定的にされるべきであるし、具体的な公文書が同条各号に該当するか否かの判断についても、いかなる事実が同条各号のいずれに該当するかを十分に検討するという慎重な運用がされるべきである。

殊に、主として神戸市の行政執行上の利益の保護を図って制定されたと考えられる同条七号及び八号の該当性判断に当たっては、支障の発生についての危険が具体的に存在することが客観的に明白である場合でなければならないというべきである。

2  本件各決定について

(一) 本件決定(一)について

(1) 七条一号該当性

① 被告は、審議会の議事録を公開するときは、関係権利者のプライバシー、すなわち、関係権利者個人の財産に係る事項が公表されることになると主張するが、プライバシーの内容については未だ法令、判例上の定説があるとはいえないので、本件条例七条一号では「プライバシー」という用語を用いずに、「特定の個人が識別され、又は識別されうる情報」であり、かつ、「公にしないことが正当であると認められるもの」と規定している。したがって、右の二つの要件を充たした情報がプライバシーとして保護されるべく非公開にすることが認められるのであり、プライバシーであるから本件条例七条一号に該当するという被告の主張は同語反復に過ぎず、それだけで非公開の根拠とはならない。

② プライバシーの権利の侵害として法的救済を求め得るには、公開された情報が一般の人々には未だ知られていない事柄であることが必要である。

本件文書(一)の記載される情報は、被告主張の審議会の権限からすれば、いずれも土地という財産に係る情報であることになり、それ以外の個人情報が審議会議事録に記載されることはあり得べからざることである。

土地をめぐる権利関係については、わが国の法制上、不動産物権の取引の安全のために登記による公示原則が採られており、土地については一般人において誰がいかなる権利を有しているかを容易に知ることができる。

③ 法は換地計画を縦覧に供すべきことを定めているが、これは、土地区画整理事業が多数の関係権利者の土地に対する権利の調整の中で行われ、ある個人の土地に対する権利が当該事業の中で保護されているか否かは、他の個人の権利との関係で判断せざるを得ないことから、各権利者の保護のために、ひいては関係権利者全員の権利保護のために、土地区画整理事業に関する限りにおいて、土地という個人の財産に係る事項を公開するとの立場に立っていることを意味する。

④ したがって、土地区画整理事業の関係権利者の最終的、確定的権利すらプライバシーとして保護されない以上、そこに至る暫定的権利、すなわち仮換地指定等をプライバシーとして保護しようと主張しても無意味であるから、換地指定に至る関係権利者の土地という財産に係る情報が公開されることには何ら問題がない。

⑤ 本件事業に関する情報は、いずれも、地権者にとって重大な関心事であるばかりでなく、同時に一般市民の税金によって賄われる行政庁施行の土地区画整理事業が適正、公正に行われているか否かを監視していく上で、一般市民全体にも重大な関心事である。

したがって、一般市民にとっても公開の必要性・有益性が高く、この点からも、非公開事由に当たらない。

(2) 七条八号該当性

① 一般に議事規則中の「会議は公開しない。」との規定は、直ちに当該会議体の議事録の非公開を定めていると解すべきではなく当該規定の解釈の問題である。

審議会規則中の「会議は公開しない。」との規定が議事録の非公開をも定めたものであるか否かも、この規定の解釈にかかるが、議事規則制定権者が第一次的に議事録の非公開の要否を判断することとされているので、公文書の「原則公開」の理念を没却しないよう、当該規定が議事録の非公開をも定めたものであるというためには、規定が形式的に疑義がない程度に明白に議事録の非公開を定めたと解しうる場合で、かつ、実質的利益衡量においてもこれを裏付けることができる場合に限るというべきである。

② 会議の非公開を定める審議会規則一一条の前後の規定は、会議場における会議自体の運営方法を定めているものであり、同条も会議自体の運営を定める一連の規定の中のひとつとして定められていることは明らかであり、議事録の非公開をも定めたと解釈するのは形式的に困難である。

③ 被告は、議事録の非公開をも定めたものであるとする実質的な根拠として、審議会は本件事業の施行者の諮問機関であること、関係権利者のプライバシーの保護、審議会における公正かつ自由な討議の保護の三点を挙げているが、以下に述べるようにいずれも根拠となりえない。

④ 審議会が施行者の諮問機関であることが、行政機関の意思形成過程に内部的に関与するにすぎず、このような内部的過程は公開する必要がないという意味の主張ならば、「原則公開」の理念から見て全くの誤りである。

審議会は、土地区画整理事業が関係権利者の発意によらないときはその委員が原則として公選によって選出されるという関係権利者の民主的基盤に立って、施行者が適切な措置をとることができるように公正な判断を提供することによって、行政過程の民主的統制を担う機関であるから、諮問機関であることが非公開の根拠となることはありえない。

被告は、審議会の委員の改選制度が個々の委員の改選を目的とするものではないことから、各委員の発言を公開すべき理由にはならない旨主張するが、前述のように審議会は行政過程の民主的統制を担う機関であるから、改選制度が個々の委員の改選を目的とするものではないとしても、そのことは非公開の根拠となりえない。

⑤ 関係権利者のプライバシーについても、前述のように、審議会の議事録に記載されるのは、土地という財産に係る情報に限られるのであるから、そのような情報を公開しても、プライバシーの侵害に当たることはない。

⑥ 審議会における公正かつ自由な討議の保護ということについては、本件条例が憲法上の「知る権利」に基づいて「原則公開」の理念に立っていることからすると、その例外を認めるための要件は、厳格かつ限定的に解釈されなければならず、「公正かつ自由な討議の支障」があるというためには、支障の発生についての危険が具体的に存在することが客観的に明白である場合でなければならないが、被告の主張する「委員の公正かつ自由な討議の支障」は余りに現実性、具体性を欠く事態であり、現実化する蓋然性が低いばかりか、結局議事支障の発生については何らの立証もない。このような抽象的なおそれをもって、議事録の非公開が正当化されるのであれば、およそいかなる会議体であっても議事録は非公開とされるべきとの結論になりかねず不当である。

反面、土地区画整理事業は、市や国の莫大な予算を費やして行う公益性の強い事業であって、また、換地の指定や工事の発注をめぐって不公平や不正が起こりやすいことから、一般的な住民自治の維持発展という見地からはもとより、適正な事業の遂行という見地からも、市民による事業の監視・統制の必要性は極めて高い。殊に、行政庁施行による土地区画整理事業における審議会は、そもそも事業の実施が住民の発意によらないことから、事業施行に当たってできるだけ住民の意思を反映させるための民主的統制機関という性格を有するところ、この性格を十分に発揮させて審議会の議事を住民意思に根ざしたものとするためには、その議事録の公開は不可欠な手段であって、公開による有用性は大きい。また、非公開による弊害としては、土地区画整理事業が、土地という重要な財産の権利関係に関わることから、自らも地権者である一部審議会委員の独断専行や不公正、あるいは技術的専門的事項であるための住民意思からの離反などのおそれがある。したがって、公開によって仮に何らかの支障が生じるとしても、これらの公開の必要性及び有益性を上回るほどの著しい支障が生じるとは考えられないし、それを認める証拠もない。

(3) 七条七号該当性

① 本件条例七条が公文書の非公開事由を列挙した趣旨は、「原則公開」の理念から公文書の非公開事由をできるだけ個別具体化し、非公開決定がいかなる理由で許されるかを明らかにすることにあり、本件条例七号各号の適用範囲は重複しないように限定的に解釈されるべきである。

② 本件条例七条七号及び八号を比較すると、同条七号は「事務事業」情報を非公開にすることができるとしているが、ここに「事務事業」として列挙されているのが「取締り」「監督」等であり、行政庁の意思形成過程の情報は別途同条六号で非公開事由とされていることからすれば、同条七号は行政庁の具体的な意思決定の存在を前提として、その対外的執行の確保のために設けられた規定と解すべきである。

これに対して、同条八号は、付属機関としての合議制機関の議事運営、すなわち合議制機関における意思決定過程を保護の対象としているのであって、同条七号と八号はその適用範囲を異にしている。

③ 被告は、審議会が、施行者の諮問機関であって、その意見は行政庁たる施行者を拘束しない旨主張しているが、そうであるならば、審議会における情報が行政庁の意思決定の存在を前提とする本件条例七条七号に該当することはありえない。

④ 仮に本件文書(一)に記載された内容が本件条例七条七号に規定する「事務事業に関する情報」に該当するとしても、被告の主張は、余りにも具体性、現実性を欠く抽象的なものにすぎず、同号に規定する「公にすることにより、当該又は将来の事業の目的を損ない、又は公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生じ、又は生じうるおそれがあると認められる」とはいえず、同号の要件には該当しない。

(二) 本件決定(二)について

(1) 公文書公開請求は書面による意思表示であるから、その解釈は、まず書面の記載に基づいてされるべきである。

本件請求(二)の請求書の「公開を請求する公文書の内容」の欄には、単に「……審議会の意思の内容」と記載されているのではなく、「審議会が……『施行者に提出した』意見の内容」と記載されており、このような限定からすれば、公開請求をしているのは「審議会議事録」ではなく、これとは別の審議会の答申等の「審議会の意見を記載した文書」であることは明らかであり、本件請求(二)の請求書の記載以外の事情を解釈の上で考慮する余地はない。

(2) 仮に、本件請求(二)の内容の解釈に際して、当該請求書の記載以外の事情を考慮するのであれば、原告が既に本件請求(一)によって審議会議事録の公開請求をしている事実が重視されるべきであり、本件請求(二)で公開を請求する公文書は審議会議事録とは別の文書であるはずだと解すべきである。

原告が、本件請求(一)で「及び答申の内容」と記載していたのを抹消したのは、当初「審議会議事録」と「答申の内容」を同一文書で公開請求しようとしたが、両者は明らかに別個の文書であるから、二つの公文書を請求することを明確にするため、後者については改めて別の請求書によって公開請求をすることにしたものである。したがって、本件請求(一)の「答申の内容」の記載が抹消されたことをもって、本件請求(二)を「審議会議事録」の公開を請求したものと見ることはできない。

(3) 被告は、本件事業の事務が国の機関委任事務であることから、審議会の意見を記載した書類については、文書の管理自体が機関委任事務であって、本件条例に基づく公開の対象とならない旨主張する。

しかし、法が規定しているのは、主務大臣の命を受けて施行する土地区画整理事業の施行事務そのものが国の機関委任事務であるというに止まり(地方自治法一四八条三項別表四第二項(四九))、土地区画整理事業のために作成された文書の管理自体を機関委任事務としているのではない。この点、情報の管理自体を委任されている戸籍の場合と、土地区画整理事業の施行を委任されている場合とが異なることは明らかである(同別表四第二項(二)参照)。審議会の意見を記載した書類は、土地区画整理事業に関連して作成された文書、すなわち「機関委任事務の処理に関連して作成された文書」であって、その管理は市の固有事務として本件条例に基づく公開の対象となるのであり、被告の主張は失当である。

(三) 本件決定(三)について

(1) 七条一号該当性

本件決定(一)で述べたと同様、本件条例七条一号には該当しない。

(2) 七条二号該当性

施行地区内の土地を事業用資産として所有し、又は借地としている者については、本件条例七条一号が「事業を営む個人の事業に関する情報を除く」としているところから、同条一号ではなく二号が問題となるが、(1)と同様の理由により同条二号にも該当しない。

(四) 本件決定(四)について

(1) 被告は、本件文書(四)に記載された情報のうち、審議会委員の①生年月日、②職業、③自宅の電話番号、④勤務先の電話番号については、「個人のプライバシーに係るものであり、本件条例七条一号に該当し、公にしないことが正当であると認められ」ると主張するが、前述のように、この主張は同語反復にすぎない。

(2) プライバシーの権利といえども絶対的なものではなく、他の利益との関係で制限されることがある。

右(1)の①ないし④の各情報が審議会委員という非常勤の公務員の名簿に記載されているのは、審議会委員の自己同一性や適格性等の判断のために、公人としての情報として必要であるから記載されたものと解される。

したがって、仮に右(1)の①ないし④の情報が一般的にプライバシーの権利の保護範囲にあるとしても、これらが公人としての情報として審議会委員名簿に記載されている以上、その限りにおいて審議会委員のプライバシーは制約されていると解され、本件条例七条一号の要件を欠く。

3  別件の民事訴訟との関係

民事訴訟上の文書取寄せの手続と本件条例の公開請求とは全く無関係である。

そもそも、いわゆる情報公開条例は、憲法二一条に基づく「知る権利」を具体化することによって憲法上の基本原理である主権在民を十全ならしめ、地方自治体行政に対する民主的統制の実効性を担保するためのものであって、本件条例一条もこの趣旨を宣明している。

原告が被告の原告に対してした処分に対して提起した訴訟のために本件公開請求をしたとしても、それは、右の趣旨に合致するものであり何ら公文書公開制度の本質をわきまえていないことにはならない。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、本件各決定が本件条例七条各号の非公開事由に該当するか否かについて判断する。

1  本件条例の趣旨、目的

(一)  本件条例は、一条において、「公文書の公開に関し必要な事項を定め、公文書の公開を求める権利を明らかにすること等により、市民の市政への参加をより一層推進し、市政を公正かつ効率的に運営し、市民福祉の向上を図り、市民の市政への信頼と理解を深め、もって地方自治の本旨に即した市政の実現に資することを目的とする。」ことを明らかにし、三条において、「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に保障されるようにこの条例を解釈し、及び運用するとともに、個人に関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを明らかにしている。

また、〈書証番号略〉によれば、昭和六一年一月に神戸市情報公開制度審議会がまとめた「神戸市の情報公開制度に関する提言」の中には、情報公開制度の確立は、いわゆる「知る権利」の実現にも資することになること、しかし、「知る権利」の文言は、多義的・多面的で法律的に不明確であるため条例上に規定することは問題があるとの意見が多かったこと、「開かれた市政」をさらに推進するためには市の保有する情報が原則として公開されなければならないこと、例外として、非公開とする情報は必要最小限度のものにとどめること、等を明記している。

これらによれば、本件条例は、条文の上では「知る権利」という文言を使用していないものの、基本的に「知る権利」を尊重し、市民の市政への参加を実質的に確保するとの理念に則り、それを市政において実現することを目的として制定されたことを推認することができる。

(二) 行政機関に対し、その保有する情報の公開を求める意味での「知る権利」が憲法上の権利か否かについては種々の議論があるが、現実に住民が取得する情報公開請求権は、憲法によって直接付与されるものではなく、制度の理念の実現を指向する地方公共団体が個人のプライバシー等の保護を図りつつ、その属する行政事務の公正かつ効率的な執行との調和を考慮しながら、自ら立法政策として条例を制定したことにより、初めて実体法上の根拠が与えられたものである。

したがって、たとえ「知る権利」が憲法上の権利であったとしても、具体的な事案において、情報公開請求権の有無を判断するに当たっては、条例制定の趣旨、目的を踏まえながら、条例の各条文の文言を忠実に解釈していく必要がある。

(三) 右の見地に立って本件条例について考察すると、同条例三条によって、公文書は原則公開としながらも、個人のプライバシーに関して最大限の配慮を求め、同条例七条各号において、例外的に公開しないことができる公文書を列記しているのであり、それらの各非公開事由に該当するか否かの判断は、個人のプライバシー等の保護には最大限の努力を払いつつも、条文の趣旨に即し、忠実に解釈されなければならない。殊に、主として神戸市の行政執行上の利益の保護を図って制定されたと考えられる同条例七条七号、八号等の解釈に当たっては、行政側の恣意的、濫用的な秘密扱いによって情報公開制度の実質的意味が失われないように、そこで保護されるべき利益が実質的に保護に値する正当なものであるか否か、その利益侵害のおそれが行政機関の主観においてだけでなく具体的に存在するといえるのかを、客観的に検討することが必要であり、それで足りるというべきである。

2  本件決定(一)について

(一)  本件文書(一)の内容等について

(1) 審議会の権限等

行政庁が土地区画整理事業を施行する場合には必ず審議会を置かなければならず(法七〇条一項)、審議会の委員には地権者のほか一定の学識経験者を加えることができるとされている(法七〇条三項、五八条三項)。

そして、審議会は、換地計画、仮換地の指定及び減価補償金の交付に関する事項について、法に定める次のような権限を行うことになっている(法七〇条三項、五六条三項)。

① 施行者が意見を聞かなければならない事項

(a) 換地計画の作成及び変更(法八八条六項、九七条三項)

(b) 換地計画の縦覧に対する意見書の内容審査決定(法八八条六項、九七条三項)

(c) 仮換地の指定(法九八条三項)

(d) 減価補償金の各権利者別交付額の決定(法一〇九条二項)

② 施行者が同意を求めなければならない事項

(a) 評価員の選任(法七一条)

(b) 過小宅地又は借地の基準地積の決定(法九一条二項、九二条二項)

(c) 過小宅地又は借地の換地不交付の決定(九一条四項、九二条三項)

(d) 増換地(借地)又は減換地の決定(法九一条五項、九二条四項)

(e) 立地換地の決定(法九三条一項)

(f) 特別換地の決定(法九五条七項)

(g) 保留地の決定(法九六条三項)

これらの審議会の意見は施行者を拘束するものではなく、同意についても、同意があった事項について施行者がその処分を必ず行わなければならないわけではなく、また、審議会の意見又は同意がなくても、施行者には処分をする権限が留保されている(法七〇条三項、六四条)。

審議会は、それぞれの議事運営について、議事規則を定めており、本件審議会においても、その審議会規則一一条で会議は公開しない旨を定めている。

(2) 〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、審議会議事録は、審議会での審議経過を記載した速記録であり、審議会の定めた審議会規則二九条は、その記載事項として形式的事項のほかに、①会議において行った選挙の要領、②会議に付した議題及びその経過、③議長の報告、④議事の概要及びその経過、⑤表決の数、その他会議及び必要と認める事項を記載するものとしていることが認められる。

(3) 以上の事実に前記審議会の権限を総合考慮すれば、審議会ではその審議事項である換地、仮換地、減価補償金の交付、過小宅地又は借地の適正化及び換地不交付等について審議するのであるが、換地及び仮換地の指定のためには、「換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない。」(法八九条一項)のであるから、その評価のために必要な全ての事項について審議することになる(減価補償金の交付についても同様である。)。

(4) また、議事録は審議会での議事の概要及びその経過を記載した速記録であるから、その本質的部分には登記簿記載事項など一般人が容易に知ることができる情報とそうでない情報とが渾然一体として記載されているものと推認することができる。

(二)  七条一号該当性

(1) 本件条例七条一号は、「特定の個人が識別され、又は識別されうる情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、公にしないことが正当であると認められる」情報が記録された文書については公開しないことができると規定している。

〈書証番号略〉(神戸市市民局発行の「公文書公開制度の手引」)によれば、本号は、個人の尊厳を守り、基本的人権を尊重するために、いわゆるプライバシーの保護について定めたものであるが、プライバシーという用語は、法令上も、判例上も未だ十分には確立されていないことを理由として、これを用いることを避け、このような条文としたものと認められる。

しかし、同条例三条によって、公文書の公開によりプライバシーに対する侵害が生じることのないように、最大限の配慮をしなければならないところ、具体的な個々の情報の公開にあたって、それがプライバシーの侵害に当たるが否かは必ずしも明確でないので、プライバシーを十分保護するためには、プライバシーの侵害とならないことが明白な場合に限り公開するという運用にならざるを得ないと解される。そして、右〈書証番号略〉では、個人に関する情報のうち、公にすることが正当と認められるのは、①何人でも法令の規定により閲覧できるとされている情報(法人役員名)、②公表することに本人が同意している情報(受賞者名)、③公表することを目的として作成し、又は取得した情報(選挙公報に登載された経歴・政見等)、④個人が自主的に公表した資料から知ることができる情報(出版物に記載された著者略歴)、⑤従来から公開されており、今後も公開しない理由がないことが明らかな情報(従来から公開されている審議会委員名)のような場合を掲げている。

(2)  本件文書(一)(個人の営業に関する部分を除く。)は、審議会が、施行地区内の土地に関して、換地、仮換地、減価補償金の交付、過小宅地又は借地の適正化及び換地不交付等の個々の地権者に直接的にその影響が及ぶような事項についての審議の概要及び経過を記載したものであるから、その記載自体から換地等の対象となる特定の個人を識別することが可能な情報を記載したものということができる。

そして、前記公開を正当とするような場合に該当するとは認められないこれらの情報は、明らかにプライバシーを侵害することがないものといえず、公にしないことが正当であると認められる。

(3) 原告は、①土地をめぐる権利関係については、我が国の法制上、不動産物権の取引の安全のために登記による公示原則が採られていて、一般人において容易に知ることができるから、これに関する情報はプライバシーとして保護の対象となる未だ一般の人々に知られていない情報とはいえない、②法は換地計画を縦覧に供すべき(法八七条、八八条)と規定し、関係権利者の施行地区内の土地の確定的な権利内容でさえ公にすることが予定されているから、暫定的なものにすぎない仮換地の指定についての情報も同様であると主張する。

しかしながら、右①については、前記認定事実のとおり、本件文書(一)には、登記簿だけでは知ることのできないような個人情報が、そうでないものと一体不可分に記載されているのであるから、その多くの部分については一般の人に未だ知られていない情報と評価することができる。また、右②についても、換地計画を縦覧できるのは、施行地区内の関係権利者だけであって、一般の人にとっては未だ知られていない情報ということができ、本件議事録記載の情報は、少なくとも行政の意思形成過程における情報が記載されている点で、縦覧できる情報の量を上回っており、右①について判示したところと同様である。

(4) また、原告は、本件事業における民主的統制及び情報公開の必要性は、地権者だけでなく、一般市民にとっても重大な関心事であるから、公開する必要があると主張する。

たしかに、本件事業は、区域内の地権者にとっての関心事であるだけでなく、一般市民の税金で賄われる公共事業であるという点で、一般市民にとっても、重大かどうかは別にして関心事でないということはできない。

しかし、仮に、一般市民にとって重大な関心事であるからといって、審議録に含まれる個人情報を保護しなくてもよいということになるわけではなく、本件条例七条一号は、世間の注目を集めている情報であっても、その要件に該当するような情報であれば、公開実施機関は公開しないことができると定めているのであるから、同号の要件に該当する個人情報を保護するために、本件文書(一)を公開しなかった被告の決定を違法ということはできない。

(三)  七条八号該当性

(1) 本件条例七条八号は、「市の附属機関、市が経営する大学の教授会及びこれらに類するもの(以下「合議制機関」という。)の会議の審議、議決の情報であって、公にすることにより、当該合議制機関の公正又は円滑な議事運営が損なわれると認められるため、規則、議事運営規定又は議決により公にしない旨を定めているもの。」については、公開しないことができると規定している。

前掲〈書証番号略〉によれば、本号は、合議制機関が、一定の範囲内において、設置者とは独立してその会議を運営し、意思決定を行う主体性・自立性を有しており、その自立性を尊重し、会議録等の当該会議に係る情報についても、その合議制機関の公正・円滑な議事運営を確保するために、自らの意思により全部又は一部を非公開にすることができるように定めたものであると解される。同じく行政における意思形成過程情報について規定した同条六号においては、公正、適切な意思形成が損なわれるか否かを、公開の実施機関が独立して判断して公開・非公開の決定をするのに対し、本号では、自主性、自立性を有する合議制機関が、議事運営規定又は議決という形式で、自らした公開・非公開の判断を尊重し、公開の実施機関は、それに拘束されるとするものである。ただ、合議制機関の議決があれば全て非公開になるとするのは行き過ぎであるので、「公正又は円滑な議事運営が損なわれる」ものに限定したものと解される。

(2) 本件審議会は、本件事業において神戸市が施行者となっているので、神戸市が法七〇条一項に基づいて設置した諮問のための機関(地方自治法一三八条の四第三項)であるから、本件条例七条八号の合議制機関に当たる。そして、本件文書(一)は、その付属機関の審議等に関する情報である。

(3) 〈書証番号略〉によれば、審議会規則一一条は、「会議は、公開しない。」と規定しているので、これが本件条例七条八号の審議会議事録を「公にすることにより、当該合議制機関の公正又は円滑な議事運営が損なわれると認められるため」に、審議会が、「…議事運営規定…により公にしない旨を定めているもの。」に当たるといえるか否かにつき検討する。

(4) 〈書証番号略〉によれば、審議会規則の一一条は、「会議は・・」と規定するだけで、同条の文言の上では議事録について何ら触れていないこと、当該条文の前には開議の宣言(七条)、散会、休憩及び延会の宣言(八条)及び定足数の不備(九条)等の規定があり、また、その後には議題の宣言(一二条)、議案の説明(一三条)、説明、質疑及び議決(一四条)、発議の禁止(一五条)並びに発言の手続及び順序(一六条)等の規定が存し、一一条は、議事の進行に関する諸規定中の一規定という形で規定されていることが認められる。

一般に会議体の議事を非公開とすることの主眼は、会議体の出席者の自由な意見交換を阻害するような事態を回避し、出席者が議事に専心できるようにして審理の充実を図ること、換言すれば、会議体の審理の実質化を図ることにあると解される。したがって、会議自体を非公開にすることと審理の終了した後にその会議の経過や結果を記録した会議録を開示することとは事柄の性質上必ずしも両立しえないわけではなく、会議の非公開が当然に会議録の非公開の意味をも含むと解することはできず、当該規定が議事録の非公開の趣旨を含むかどうかの解釈の問題となる。

ところで、既に述べたように、本件文書(一)の議事録には、地権者に関する個人を識別する情報で、公にしないのが正当と認められるようなものが含まれているのであるから、このような情報までも公開しなければならないとするならば、審議会委員個人に対して非難が出るおそれがあるばかりではなく、以後地権者から情報提供の協力を得られなくなることは容易に推測できる。そうなると、換地、仮換地の具体的内容を対象とする審議会における討議に不可欠である地権者に関する情報の取得が困難になる可能性があるから、公正かつ円滑な議事運営が損なわれるとして、単に審議会の議事を非公開にするにとどまらず、議事の結果を記載した議事録をも非公開とする旨の趣旨を含んで、審議会規則一一条が規定されたと解するのが相当である。

(5) したがって、本件文書(一)は、本件条例七条八号の要件にも該当する。

(四)  七条七号該当性

(1) 本件条例七条七号は、「市又は国が行う取締り、監督、立入検査、争訟、許可、認可、試験、交渉、渉外、入札、人事その他の事務事業に関する情報であって、公にすることにより、当該又は将来の事務事業の目的を損ない、又は公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生じ、又は生じるおそれがあると認められるもの。」については、公開しないことができると規定している。

〈書証番号略〉によれば、事務事業の執行に係る情報のなかには、最終的な意思決定がされていても、公開することにより、公正又は円滑な執行が妨げられるものがあるので、そのような事務事業の執行確保のために、当該事業に係る情報を非公開とすることができるように本号を設けたものと認められる。

(2) ところで、本号に例示として挙げられているのが、「取締り」、「監督」であること、行政庁の意思形成過程における情報に関しては、本件条例七条六号で非公開とされていることによれば、本号にいう「事務事業」とは、既に行政庁の最終意思決定が存在していることを前提として、その対外的執行に関するものを意味すると解される。これに対し、審議会は、最終意思決定者である事業の施行者が公正に意思決定できるような資料を提供する権限を有し、かつその権限の範囲はそれにとどまるのであるから、未だ最終意思決定がされていない場合であり、七号が想定している「事務事業」に当たらないというべきである。

(3)  したがって、そもそも本件文書(一)は本件条例七条七号の対象としている文書には当たらないから、同号をもって、非公開決定の根拠とすることはできない。

(五) よって、本件文書(一)は、本件条例七条七号には該当しないが、同条一号及び八号に該当するから、これに対して非公開決定したことは適法である。

3  本件決定(二)について

(一)  本件文書(二)の特定について

(1) 本件公開請求(二)において、公文書の内容を「神戸市国際港都建設事業須磨地区復興土地区画整理事業板宿地区土地区画整理審議会が発足から現在に至るまでに施行者に提出した意見の内容」として原告がした公開請求に対して、被告が、その文書の件名を「神戸市国際港都建設事業須磨地区第二工区復興土地区画整理審議会議事録」と特定した上で、本件決定(二)に至ったことは、当事者間に争いがない。

(2) そこで、本件公開請求書の「公開を請求する公文書の内容」の欄に、原告が記載した文言について検討すると、「審議会が…施行者に提出した意見の内容」となっており、意見提出の主体が審議会である上、施行者に対して意見が法的意味を持つのは、審議会における各委員の意見の内容ではなく、その結果成立した審議会の意見にほかならないのであるから、原告が求めているのは、各委員毎の意見を記載した議事録ではなく、「審議会の意見を記載した書類」(法八四条、令七三条三号)である答申書と解せられる。

(3) この点につき、被告は、①原告には弁護士が代理人となっていながら条文上の用語を使用していないこと、②本件請求(一)で「及び答申書」という記載を抹消して本件請求(二)にこのような記載をしたこと、③答申書だとすると本件条例の対象の範囲外になることの事実を挙げ、特定に違法はなかった旨主張する。

しかし、右①については、確かに、弁護士が代理人である場合は、法律用語が正確に使用されていることを期待してよいと思われるが、そもそも文言の解釈は、法律用語であろうがなかろうが、当該事情の下でその文言をどのように理解することができるかということに尽きるのであるから、条文上の用語を正確に記載していなかったとしても、前記のような本件請求(二)を議事録と解する理由とはならない。右②については、同じ日に提出の二通の請求書で全く同じ一の文書の公開を請求するとは到底考えられず、却って、本件請求(二)で請求されている文書を議事録と解する上で障害となるべきものである。また右③についても、答申書なら本件条例の範囲外である(本件条例によらなくても、利害関係者は閲覧請求できる。)ということも、前記の事情によれば、議事録を選択する理由とはならない。

(二)  以上のとおりであって、本件決定(二)は、本件請求(二)に係る文書を審議会の答申書として公開の許否を決定すべきであったのに、誤ってこれを審議会議事録と特定して非公開の決定をしたものである。

しかし、審議会の答申書は、施行者の主たる事務所に備え付けておかねばならず、利害関係者からその閲覧の請求があった場合は、施行者は、正当な理由がないのに、これを拒んではならないとされているところ(法八四条、令七三条)、本件条例一五条は、「この条例は、別に定められている手続により、公文書の閲覧若しくは縦覧又は公文書の写しの交付を受けることができる場合については、適用しない。」と規定している。原告は、自らが本件事業の利害関係者であることにつき明らかに争っていないから、法八四条、令七三条に基づいて審議会の答申書の閲覧を請求できるので、右答申書の公開請求について本件条例の適用を受けることができなかったものである。したがって、本件請求(二)により右答申書の公開は行いえなかったものであるから、本件決定(二)は結論においてこれを是認することができる。

4  本件決定(三)について

(一)  本件文書(三)の特定について

(1) 本件公開請求(三)において、公文書の内容を「神戸市国際港都建設事業須磨地区復興土地区画整理事業板宿地区仮換地前及び仮換地後の各土地の面積、間口、奥行を測量した測量図面」として原告がした公開請求に対して、被告が、その文書の件名を「仮換地指定図、整理前後対照図」と特定した上で、本件決定(三)に至ったことは、当事者間に争いがない。

(2) 弁論の全趣旨によれば、仮換地指定図は、仮換地後の測量図面であり、整理前後対照図は、仮換地前後の土地の位置関係を示すものにすぎず測量図面ではないが、整理前の測量図面は存在しないことが認められる。

(3) 以上の事実を総合すると、仮換地指定図は、原告が請求した文書を意味するが、整理前後の対照図は原告の請求書の文言どおりの図面ではないことになる。しかし、本件事業においては、仮換地前の測量図は作成されていないのであるから、それに比較的類似した整理前後対照図を本件文書(三)として特定したことをもって違法ということはできない。

(二)  七条一号該当性

(1)  本件文書(三)は、仮換地後の測量図及び仮換地指定の前後の土地の位置関係の対照を示す図にすぎないから、それだけで個人を識別することはできないが、土地登記簿など誰でも容易に閲覧できるような情報と結合することによって、特定の個人に関する財産状況等を判別することが可能な情報ということができる。

(2)  一般に個人の財産状況に関する情報は、他人に知られたくない場合が多いであろうし、また、その財産状況も、仮換地の指定の段階では暫定的なものにすぎないのであるから、その取扱いには一層の注意を要すると思われるので、公にしないことが正当であると解される。

(3)  したがって、本件文書(三)は、本件条例七条一号の文書に該当する。

(三)  七条二号該当性

(1) 本件条例七条二号は、「法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの。ただし、人の生命、身体若しくは健康を害し、若しくは害するおそれのある事業活動又は人の財産若しくは生活に対し重大な影響を及ぼす違法若しくは不当な事業活動に関する情報を除く。」ものは公開しないことができると規定している。

(2) 〈書証番号略〉によれば、本号は、営業の自由、結社の自由の保障及び公正な競争秩序の維持のために規定されたものであって、「競争上の地位を害すると認められるもの」というのは、生産技術上のノウハウ、取引上、金融上、経営上の秘密等を公開されることにより、公正な競争原理を侵害すると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」というのは、人事上の情報や中小企業相談カード等の内部管理情報のように、必ずしも右のような競争の概念でとらえることができないが、事業を営む者に対する名誉侵害、社会的評価の低下となる情報及び結社の自由を保障し、組織秩序を維持するために、社会通念上、団体の内部事項と認められる情報等をいうと認められる。

(3) 本件文書(三)は、仮換地後の測量図及び仮換地指定の前後の土地の位置関係の対照を示す図面であるから、関係権利者の競争上の地位を害するということはできないし、また、関係権利者の名誉若しくは社会的評価を害したり又は結社の自由を害するようなものとは直接関係のない情報にすぎないと解することができる。

(4) したがって、本件文書(三)は本件条例七条二号の要件に該当しない。

(四)  よって、本件文書(三)は本件条例七条二号には該当しないが、同条一号に該当し、本件決定(三)は適法である。

5  本件決定(四)について

(一)  本件文書(四)について

〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、本件文書(四)は、昭和五七年三月二五日、昭和六二年五月一日及び平成元年九月六日現在の神戸市国際港都建設事業須磨地区第二工区復興土地区画整理審議会委員名簿であり、同文書には、議席番号、氏名、住所、生年月日、職業、選出別並びに自宅及び勤務先の電話番号の記載があるが、そのうち生年月日、職業、自宅電話番号及び個人についての勤務先の電話番号について非公開と決定されたことが認められる。

(二)  七条一号該当性

(1) 右非公開の事項は、既に公開された他の情報と結合することで特定の個人である審議会の各委員に関する情報が判明するものである。

(2)  右事項のうち、生年月日は私的な身分上の事項に関する情報であるし、職業は、本件では、選出区分のように委員の資格と不可分なものでもなく私的な経歴に関する情報であり、また、電話番号もNTTに申し入れることによって調査することができなくすることも可能な事項であり、かつ、いずれも、選挙された公務員である審議会の委員に関する情報とはいえ、その職務とは直接関係のない情報であり、見ず知らずの他人に通常知られたくないような情報であるともいえるのであるから、「公にしないことが正当であると認められるもの」ということができる。

(三) したがって、本件文書(四)の非公開部分は、本件条例七条一号の文書に該当するので、本件決定(四)の部分公開決定は適法である。

三結論

以上によれば、原告の本訴各請求は、いずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官辻忠雄 裁判官吉野孝義 裁判官北川和郎)

別紙処分目録

(一) 平成元年一一月二七日付神都区西第二四一号公文書非公開決定通知書により通知された左記文書についての公文書非公開決定

公文書の件名―神戸国際港都建設事業須磨地区第二工区復興土地区画整理審議会議事録

公文書の内容―神戸国際港都建設事業須磨地区復興土地区画整理事業板宿地区土地区画整理審議会の発足から現在に至るまでの議事録

(二) 平成元年一一月二七日付神都区西第二四二号公文書非公開決定通知書により通知された左記文書についての公文書非公開決定

公文書の件名―神戸国際港都建設事業須磨地区第二工区復興土地区画整理審議会議事録

公文書の内容―神戸国際港都建設事業須磨地区復興土地区画整理事業板宿地区土地区画整理審議会が発足から現在に至るまでに施行者に提出した意見の内容

(三) 平成元年一一月二七日付神都区西第二四四号公文書非公開決定通知書により通知された左記文書についての公文書非公開決定

公文書の件名―仮換地指定図

整理前後対照図

公文書の内容―神戸国際港都建設事業須磨地区復興土地区画整理事業板宿地区仮換地前及び仮換地後の各土地の面積、間口、奥行を測量した測量図面

(四) 平成元年一一月二七日付神都区西第二四三号公文書部分公開決定通知書により通知された左記文書についての公文書部分公開決定

公文書の件名―神戸国際港都建設事業須磨地区第二工区復興土地区画整理審議会委員名簿(昭和五七年三月二五日、昭和六二年三月二五日及び平成元年九月六日現在)

公文書の内容―神戸国際港都建設事業須磨地区復興土地区画整理事業板宿地区土地区画整理審議会の発足から現在に至るまでの委員の名簿

公文書の公開の日時―平成元年一一月二八日(火)午後二時〇分

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